BERTによる日本語文の類似度分析:Colab プログラムによる実験・研究スキルの基礎

【概要】本記事では、Google Colabで動作する文の意味的類似性分析プログラムについて解説する。BERTモデルを用いた文埋め込みベクトル生成、類似度計算、クラスタリングの手法を学び、実験・研究の基礎スキルを習得できる。

Colabのページ(ソースコードと説明): https://colab.research.google.com/drive/1Ba6PW6bHgnboGGN2FDHrW40BBRFeIyo1?usp=sharing

BERTによる日本語文の類似度分析 BERTによる日本語文の類似度分析 BERTによる日本語文の類似度分析 BERTによる日本語文の類似度分析 BERTによる日本語文の類似度分析

【概要説明】 [PDF], [パワーポイント]

【目次】

  1. プログラム利用ガイド
  2. プログラムコードの説明
  3. 実験・研究スキルの基礎

プログラム利用ガイド

1. このプログラムの利用シーン

複数の文章の意味的な類似性を分析してグループ化したい場合に使用する。アンケートの自由記述回答の分類、文書の主題分析、類似文の検出などに活用できる。Google Colabで動作するため、ブラウザのみで実行可能である。

2. 主な機能

3. 基本的な使い方

  1. Colabのページを開き,コードセルを実行
  2. 入力方法の選択:

    プログラム実行後、0(サンプルテキスト)、1(ファイルアップロード)、2(前回結果の再利用)、3(終了)のいずれかを入力する。

  3. ファイルアップロード(選択肢1の場合):

    改行で区切られた文章を含むテキストファイル(UTF-8形式)を選択する。

  4. 結果の確認:

    プログラムを実行すると、以下の3つの図が順番に表示される。

    • 図1:文番号順の類似度ヒートマップ
    • 図2:2次元配置とクラスタリング結果
    • 図3:クラスタ順に並び替えたヒートマップ
  5. 統計情報の確認:

    平均類似度、標準偏差、最適クラスタ数、シルエット係数が表示される。

4. 便利な機能

プログラムコードの説明

1. 概要

このプログラムは、日本語BERTモデルを使用して文の意味表現を分析するツールである。各文を768次元の埋め込みベクトルに変換し、文間の意味的類似度を計算して可視化する。文のグループ化をクラスタリングで行い、結果をヒートマップと2次元散布図で表示する。

2. 主要技術

BERT (Bidirectional Encoder Representations from Transformers)

Devlinらが2019年に発表した双方向トランスフォーマーによる言語表現モデルである[1]。文脈を考慮した単語・文の埋め込みベクトルを生成する。本プログラムでは東北大学が開発したbert-base-japanese-v3モデルを使用する。

多次元尺度構成法(MDS)

高次元データ間の距離関係を保持しながら低次元空間に配置する手法である[2]。本プログラムでは文間の類似度を2次元平面上の距離として可視化する。

3. 技術的特徴

4. 実装の特色

Google Colab環境での実行を前提とし、以下の機能を備える。

5. 参考文献

[1] Devlin, J., Chang, M. W., Lee, K., & Toutanova, K. (2019). BERT: Pre-training of Deep Bidirectional Transformers for Language Understanding. In Proceedings of NAACL-HLT 2019 (pp. 4171-4186). https://aclanthology.org/N19-1423/

[2] Borg, I., & Groenen, P. J. F. (2005). Modern Multidimensional Scaling: Theory and Applications (2nd ed.). Springer.

[3] Rousseeuw, P. J. (1987). Silhouettes: A graphical aid to the interpretation and validation of cluster analysis. Journal of Computational and Applied Mathematics, 20, 53-65. https://doi.org/10.1016/0377-0427(87)90125-7

実験・研究スキルの基礎:Google Colabで学ぶ文埋め込み分析実験

1. 実験・研究のスキル構成要素

実験や研究を行うには、以下の5つの構成要素を理解する必要がある。

1.1 実験用データ

このプログラムでは日本語の文章が実験用データである。各文は1行ずつ記載され、改行で区切られたテキストファイルとして準備する。

1.2 実験計画

何を明らかにするために実験を行うのかを定める。

計画例:

1.3 プログラム

実験を実施するためのツールである。このプログラムはTransformersのBERTモデル、scikit-learnのMDSとK-meansを使用している。

1.4 プログラムの機能

このプログラムは文の埋め込みベクトルを生成し、文間の類似度を分析する。

入力データ:

出力情報:

分析の流れ:

1.5 検証(結果の確認と考察)

プログラムの実行結果を観察し、文の意味的関係を考察する。

基本認識:

観察のポイント:

2. 間違いの原因と対処方法

2.1 プログラムのミス(人為的エラー)

プログラムがエラーで停止する

モデルのダウンロードに時間がかかる

日本語が文字化けする

2.2 期待と異なる結果が出る場合

すべての文の類似度が非常に高い(0.9以上)

意味的に似ている文の類似度が低い

クラスタ数が期待より少ない

クラスタリング結果が直感と異なる

文の数が多すぎて図が見づらい

3. 実験レポートのサンプル

多義語を含む文の自動分類

実験目的:

「手」という単語の異なる意味(身体部位、方法・手段、動作・運動)を含む文が、BERTモデルにより意味ごとに正しく分類されるかを検証する。

実験計画:

各意味カテゴリから5~7文ずつ、合計20文を用意し、クラスタリング結果が意味カテゴリと一致するかを確認する。

実験方法:

プログラムのサンプルテキスト(20文)を使用し、以下の基準で評価する:

実験結果:

クラスタ番号 文の数 含まれる意味カテゴリの内訳 備考
(例文)クラスタ0 (例文)x文 (例文)身体部位x文、動作・運動x文、方法・手段x文 (例文)3つのカテゴリが混在
(例文)クラスタ1 (例文)x文 (例文)方法・手段x文、身体部位x文 (例文)方法・手段がやや多い
(例文)クラスタ2 (例文)x文 (例文)動作・運動x文、方法・手段x文、身体部位x文 (例文)動作・運動がやや多いが混在

統計情報:

考察:

結論:

(例文)本実験では、BERTモデルによる多義語「手」を含む文の自動分類を試みたが、意味カテゴリに基づく明確な分類には至らなかった。すべてのクラスタで複数の意味カテゴリが混在し、シルエット係数も低~中程度にとどまった。BERTの文埋め込みだけでは多義語の細かい意味の違いを捉えることが困難であることが明らかになった。実用的には、自動分類の結果を参考にしつつ、別の技術の利用や、最終的には人間が内容を確認して分類する必要がある。